最高裁判所第二小法廷 昭和48年(あ)1984号 決定 1975年1月27日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人山本栄則、同吉岡桂輔、同近藤節男、同西村寿男の上告趣意は、判例違反をいうが、所論引用の判例(当裁判所昭和二三年(れ)第九五六号、同二四年五月一八日大法廷判決・刑集三巻六号七九六頁)は、本件とは事案を異にするから、所論は、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、原判決の認定する事実関係のもとでは、被告人方で捜索がされた時点においても、第一審判決判示第二の(一)の覚せい剤を所持する罪と同判示第二の(二)の覚せい剤原料を所持する罪とは、別個独立に成立し、両罪は併合罪の関係にあつたものと認めるのが相当であるから、同判示第二の(一)及び(二)の両罪を併合罪の関係にあるとした原判決の判断に法令違反はない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(大塚喜一郎 岡原昌男 小川信雄 吉田豊)
《参考》
【第一審判決の認定】
第二(一) 昭和四七年一一月一六日頃東京都渋谷区代々木四丁目五三番八号の当時の被告人方において覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する粉末0.437グラム(昭和四八年押第一号の二はその一部である)を所持し、
(二) 昭和四七年一一月一六日頃群馬県伊勢崎市今泉町一、二六〇番地伊勢崎警察署内において、覚せい剤原料である一―フエニル―二―メチルアミノプロパノール―一の塩酸塩を含有する粉末0.7612グラム(昭和四八年押第一号の一はその一部である)を所持し、
【第二審判決の認定】
一、控訴趣意第一点(法令の適用の誤りの主張)について。
所論は、原判示第二の(一)および(二)の罪は、包括一罪または観念的競合の関係にあり、一罪として処断すべきであるのに、これを併合罪とした原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤りがある、というのである。
そこで、原判決を検討してみると、原判決は、罪となるべき事実第二の(一)において、被告人が、昭和四七年一一月一六日ころ、東京都渋谷区代々木四丁目五三番八号の当時の被告人方において、覚せい剤粉末0.437グラムを所持した事実、同第二の(二)において、被告人が、同日ころ、群馬県伊勢崎市今泉町一、二六〇番地伊勢崎警察署内において、覚せい剤原料粉末0.7612グラムを所持した事実をそれぞれ認定している。そして、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第二の(二)の事実は、被告人が、昭和四七年一一月一六日午前九時四〇分ころ、原判示第二の(一)記載の場所で逮捕され、同日午後三時ころ伊勢崎警察署に押送されて来たときに被告人のポケット内に覚せい剤原料を所持していたのが発見されたものであることが認められ、そうだとすれば、被告人は、原判示第二(一)記載の日時場所において、すでに右覚せい剤原料を所持していたものと認むべきことは、所論のいうとおりである。しかし、関係証拠によると、原判示第二(一)の覚せい剤は、右日時場所において家宅捜索を受けた際に、テレビの上から発見され、押収されたものであることが明らかであり、他方原判示第二(二)の覚せい剤原料は、前記のとおり、被告人がポケットの中に所持していたものであるから、右家宅捜索の時点において、同じ家屋内で、原判示第二(一)の覚せい剤と同第二(二)の覚せい剤原料を所持していたとしても、所持の態様に差異があり、これらを一か所にまとめて所持していた場合のように、その全体を一個の所持と見ることはできず、それぞれ別個の所持と評価すべきものである。原判示第二の(一)および(二)の各罪を併合罪として処断した原判決には、法令の適用の誤りは存しないから、論旨は、理由がない。